世界2000社、独自に価格設定
排出する二酸化炭素(CO2)に値段を設定し、投資の是非を決める企業が増えています。
取り入れる企業は世界で2000社を超え、投資家も導入の有無や価格設定を重視するようになっていて、案件ごとに排出量を把握し金額化することで判断基準の一つに組み入れるシステムです。
各国が2050年の脱炭素を掲げ、炭素税の導入も議論されるなか、企業側も排出削減に向けて本腰を入れています。
企業が独自に炭素に価格付けする取り組みを「インターナルカーボンプライシング(ICP)」と呼び、各国の水準や国際エネルギー機関(IEA)の炭素価格予測、同業他社を参考にCO2排出1㌧当たりの価格を設定します。

設定額は10ドル(約1100円)から30ドルが多いが、2ドル(約220円)未満や1000㌦以上の企業もあるなど幅広く、値段が高ければ高いほど、排出に厳しい姿勢をとっていることになります。
収益に貢献が大きい事業に投資する場合でも排出量が大きく増える場合はやめたり、排出量を大きく減らせる投資を優先したりするようです。
明電舎は4月にICPを導入した。投資判断をする際に、省エネ効果(CO2削減量)も金額換算する。導入コストは高いがCO2削減効果が大きいとして、調光機能付きの発光ダイオード(LED)照明を電子機器工場に導入しました。
2年前に導入した日立製作所は19年度は35件の省エネ投資につながりました。価格は1トン=5000円だが、環境関連投資の加速に向け見直しを検討中。事業でのCO2排出量の多い海運でも商船三井が今年度中の導入を検討しています。
英非営利団体CDPによると、世界の主要9526社でICPを導入するのは20年で853社と1年で2割以上増えました。
2年以内に導入する計画の企業を合わせると2012社と全体の2割を超え、国・地域別では欧州が661社で北米が359社、日本は252社ありました。
欧米では一歩進んだ活用法も広がっています。
米マイクロソフトは世界100カ国以上で営業や商品開発といった部門ごとに、電力消費などに合わせCO2排出量の上限を定め、超過分は1トン=15ドルで各部門から徴収し、再生エネルギー由来の電力購入や森林保護、環境投資などに充てています。
20年度からは取り組みを強化。商品の生産時などにとどまらず、取引先などで発生するCO2も考慮対象に含めました。
人気ゲーム機「Xbox」の待機中の電力消費が15ワットから2ワット以下に減る原動力となった。
世界各国・地域で炭素税や排出枠取引といったカーボンプライシングの動きが広がり、企業の負担「炭素負債」は30年間で4700兆円に上るとの試算もあります。いずれ会計への反映が求められる可能性があり、備えが必要になりそうです。
欧州連合(EU)の排出量取引制度(ETS)での排出量価格は足元で1㌧約54ユーロ(約7000円)だ。企業は炭素価格の水準設定が妥当なのかも問われます。
投資家も企業を判断する際にICPを重視するようになってきていて、野村アセットマネジメントはESG(環境・社会・ガバナンス)スコアを付ける際にICP導入の有無や価格水準を考慮しました。主要国の金融当局が設立した気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)もICP活用を推奨しています。
「ICPはあくまでツールで、脱炭素の戦略とセットで結果を示さなければ、投資家などからの評価は高まらない」(SOMPO未来研究所の松崎絢香氏)との指摘もあります。