トラックもフェリーも電動化
オスロから南に広がるオスロ・フィヨルドの交通の要衝、モス。対岸のホルテンとをつなぐフェリーのルートはノルウェーでも最も忙しい海路とされています。フェリー乗り場の岸壁で工事が進んでいる。高さ4メートルほどの黒い箱には「フェリーチャージャー」の文字が。このルートで運航する世界最大級全長139メートルの電動フェリー「MFバストエレクトリック」を充電するためのものです。
フェリーは完全電気駆動に
同フェリーは現在はディーゼルエンジンとのハイブリッドで運航しているが、モスの充電設備が完成すると、ホルテン側で稼働中の充電器と合わせて完全電気駆動に移行します。MFバストエレクトリックの電池容量は4300キロワット時と日産自動車の電気自動車(EV)「リーフ(通常モデル)」107台分です。

現在は5隻のうち1隻だけで、22年夏に全運航を電気フェリーに切り替えます。二酸化炭素(CO2)削減効果はガソリン車1万台分に。運航会社バスト・フォーセンのオイヴィンド・ルンド最高経営責任者(CEO)は「地域全体のグリーンシフトに貢献する」と意気込みます。

船舶向けの充電システムを開発する独シーメンス・エナジーによると、ノルウェーでは2021年末までに70隻の電動フェリーが運航する予定です。運輸部門のCO2排出では乗用車に注目が集まりがちですが、バスやタクシーを含んでも約半分で、船舶は航空と並んで約1割を占めます。
■商用バンの充電拠点整備
残りの3割がトラックなどの商業輸送。オスロではこの分野でも実験が進みます。オスロ港の一角にコンテナを積んで作った仮設風の建物が白、黄、赤と並ぶ。ドイツ鉄道系のDBシェンカーのコンテナでは三菱ふそうトラック・バスの電気トラック「eキャンター」が充電されていました。
ここは「オスロシティーハブ」。その名の通り市外から荷物を運んでくる大型トラックが荷物を下ろし電動の小型トラックやバン、自転車に載せ替えて市内に運ぶハブです。

オスロでは30年までにすべての商用バンや重量輸送を原則CO2排出ゼロにすることを義務付けています。そのため19年にDBシェンカーが市に協力を要請しその後、黄のドイツポストDHL、赤の地元郵便会社ポステンが加わり大手5社のうち3社が集まります。
ポトビックさんは「オンラインショッピングが増えるなかでCO2削減の目標を達成するには、商業輸送のインフラ整備が重要だ」と話しました。
タクシーは非接触で充電
ポトビックさんのチームはタクシーの充電にもメスを入れました。非接触充電です。英ジャガー・ランドローバーや充電技術スタートアップの米モメンタム・ダイナミクスなどと協力してテストを進めます。改造したジャガー「Iペース」25台を使い、市内3カ所に充電ポイントを設けました。
タクシー運転手は道路に埋め込まれた青い充電パッドの上に車を止めれば、ケーブルの抜き差しをすることなく客を待つ間に充電ができます。充電出力は50キロワットを突破し、さらなる高速化を目指しています。
ポトビックさんは「非接触充電はゲームチェンジャーになりうる」と期待しています。オスロ市や第2都市のベルゲンは24年に新規登録だけでなく営業するすべてのタクシーを温暖化ガスを排出しないゼロエミッションにすることを決めています。インフラ整備の支援と規制の導入という、アメとムチを駆使して、脱炭素を目指す壮大な社会実験から目が離せません。