こんにちは。
体調が良くないけど、病院に行くほどかどうか判断しにくい。そんな悩みをスタートアップが解決しようと動きます。
新型コロナウイルスの感染拡大もあって多くの人が相談を望むなか、素早く対応できる仕組みを割安に提供。
通院や医師・看護師の訪問に代わる方法としても用意します。仕事や個人的な事情などから受診しにくい場合もあり、IT(情報技術)を使って医療を受けるハードルを下げています。

仮想「待合室」で診察待ち
新型コロナの1日当たりの新規感染者数が東京都で1000人を超えていた2021年9月14日、あるスタートアップのオンライン診療サービスに注目が集まりました。
MICIN(マイシン、東京・千代田)が手掛ける「curon typeC」を、東京都医師会が自宅療養者のフォローアップに採用すると発表したためです。

マイシンのサービスは、受診希望者がスマートフォンを持っていればすぐに使えます。アプリをインストールする必要すらない手軽さを特徴とします。希望者は指定のURLからインターネット上の仮想の「待合室」にアクセスすれば、医師による診察が始まるのを待つだけ。
大手企業などによる既存のオンライン診療システムでは、問診や健康情報の登録機能などが細かく設けられ、複雑な初期設定が必要とされ、受診希望者にとっては診察に入るまでにかかる時間や、個人情報を聞き出される心理的な負担などが重くのしかかります。マイシンのサービスはそれらを解消してくれます。
感染急拡大に対応しやすく
医師にとっても使い勝手が良いです。従来「新型コロナ陽性の自宅療養者を、医師がオンラインで経過観察できる環境をつくる」(東京都医師会の尾崎治夫会長)ことが求められても、感染拡大で急増した自宅療養者に対応できる現実的な仕組みをどう構築するかが課題となっていました。
マイシンのサービスなら医師は、スマホ経由で集まる自宅療養者の診察に専念できます。療養者が増えても円滑に進められ、家庭内などでのクラスター感染にも対応しやすい。既存のシステムが複雑で「(症状が安定した患者の)継続的な診療には向きますが、新型コロナのような急性疾患には不向きだった」(マイシンの原聖吾社長)のに対し、操作をシンプルにしました。
患者の負担はシステム利用料として数百円、医療機関の導入コストは無料としたこともあり、採用が広がっています。
東京都医師会が平日午後6~9時の自宅療養者向けオンライン診療を多摩地域から順次始めたほか、品川区医師会は21年4月からの試行を経て本格導入しました。板橋区や広島県の一部での導入も決まりました。
既存システムはコロナに不向き
医師がオンラインで患者を診察するサービスは、感染リスクを低減しつつ医療を続けなければならないコロナ下に適しているが、普及は進んでいないようです。厚生労働省の21年4月時点の調査で電話・オンライン診療を導入する医療機関数は約1万6800件と全体の15%にすぎず、初診対応する医療機関に限ると6.5%にとどまる。
原因の一つはシステムにありました。多くは糖尿病や高血圧など、比較的症状の安定した病気の診察を想定したつくり。クレジットカード決済や診察前の問診など機能も豊富だが、個人情報の事前登録など患者ごとに手間がかかります。感染が急拡大し症状の急変もある新型コロナには向かないようです。
また新型コロナで自宅療養や入院を指示するのは地域の保健所で、自宅療養者の健康状態を確認するのも保健所の仕事となります。この点、マイシンのサービスでは自宅療養者へのURL発行の役割で保健所が介在し、医師会のフォローアップにつなぐことでオンライン化を実現しました。
既存のシステムは、メドレーの「クリニクス」で約30万円と導入費用もかかります。半面、オンライン診療で得られる報酬は対面診療より2~3割低く、医師からは「経営の面では費用対効果であまり見合わない」(都内の診療所院長)との声も漏れました。
メドレーも21年8月、NTTドコモなどと共同でスマホをワンタップすれば診察が始まる新サービスを始めました。当面、患者と医師の双方で利用無料とし、同年9月には埼玉県産婦人科医会が導入した。
埼玉県産婦人科医会は保健所やかかりつけ医などと連携して新型コロナに感染した妊婦の自宅療養を支援する体制を整え、約30の医療機関が新たなオンライン診療のサービスを利用している。平田善康会長は「マニュアルを読む必要がないくらい簡単に操作できることが導入の決め手になった」と説明する。