こんにちは。
電気料金の上昇が続いています。主要4電力で11月の家庭向け料金は年初から平均13%高くなります。今冬は電力不足の懸念も浮上している。電気料金はこれからどうなるのでしょうか。4つのポイントから読み解きました。
・なぜ燃料の争奪戦が広がる?
・世界ではどうなの?
・電気料金はいつまで上がる?

(1)なぜ電気料金が上がるのでしょうか
電気料金の上昇が続いているのは液化天然ガス(LNG)など化石燃料の争奪戦が世界で広がり、燃料価格が高騰しているためです。電力会社は燃料費が上がっても利用者へ自動的に価格転嫁できる制度で電気料金を決めています。通常の商品は原材料コストの上昇を販売価格に転嫁するのは競争上難しいことも多いのですが、電気は燃料価格の上下が料金に反映されます。
電気はLNGや石炭、石油など化石燃料を燃やす火力発電のほか、ウランを燃料にした原子力発電、太陽光や風力などを活用した再生可能エネルギー発電などによって作られています。2011年の東日本大震災前は原発が国内の発電量の3割前後を占めていたのが、今は多くの原発が停止しており、東京電力ホールディングスの場合、電源構成に占める火力の割合は20年度で78%に達します。火力の比率が高い電力会社ほど電気料金の上げ幅が大きい傾向があります。
東電では、21年1月の電気料金のもとになった20年8~10月の燃料費の平均は1キロリットル換算で2万1800円。11月料金に反映する21年6~8月燃料費は同3万7600円と7割超も上がりました。
(2)なぜ燃料の争奪戦が広がるのか
きっかけの一つは欧州です。ガス業界団体GIEによると、欧州のガス貯蔵能力に占める貯蔵率は9月末に75%しかなく、直近5年の同じ日の平均(89%)を大きく下回ります。在庫量では平時の16%減。暖房向けの消費が年前半に多くなり、在庫が減ったが回復が遅いです。石炭の不足などで電力危機問題に直面している中国はLNGの輸入を増やしています。今年は輸入量で世界最大だった日本を上回る見通し。新型コロナウイルスの影響が一段落した国では経済活動が再開し、エネルギーの需要が増えました。

産油国が原油の生産量の増減を決める会議で当面は増産しない方針を決めたこともあって、燃料の需給は引き締まっています。天候によって発電量が不安定になりがちな再生エネが増えていることも要因の一つ。風力発電は風が吹かなければ発電できず、太陽光は雨が続くと発電量が減ります。そうなると電力会社は足りない分を火力で埋め合わせようとするから、LNGなどの燃料需給が逼迫するのです。
この現象が実際に起こったのが「脱炭素先進国」と言われるスペインだ。電源構成の2割を占める風力で今夏以降、風が弱まったため発電量が減少し、火力で補おうとしたことが欧州でのエネルギー危機に拍車をかけました。
(3)世界ではどうなのか
電気料金が上昇しているのは日本だけではない。海外では日本より上げ幅が大きいところも多い。中国政府は石炭火力発電による電気料金の上げ幅を最大20%まで容認する方針を打ち出しました。石炭価格が上昇して発電会社の収益が悪化しているためです。AP通信によると風力発電の発電量が減少したスペインでは9月時点で家庭向け料金は前年比35%高くなりました。
電気料金の高騰で生活が苦しい人を対象に政府が補助金を出す国も出始めています。欧州連合(EU)は低所得者などに補助金を出す方針を打ち出しました。
(4)電気料金はいつまで上がるのか
燃料価格は3~5カ月後の電気料金に反映されます。現在の燃料高を考えると今冬も電気料金が上がるのは確実。世界で燃料の争奪戦が広がる可能性もあり、日本の電力大手が十分な燃料を確保できるかも不透明です。例年以上の寒波が来れば電気料金が上昇するだけでなく、電力不足が発生する懸念も出ています。米海洋大気局は今冬、北半球では70~80%の確率で「ラニーニャ現象」が発生し、気温が例年より低くなるとみられます。

中長期的にみてもリスクは高まっている。日本も含めて再エネへのシフトを進めている国が多い中、脱炭素の流れの中で化石燃料を生産するための投資は減少する見込みです。英BPによると、石炭の世界生産は2013年の約82億5580万トンがピーク。20年は同年比で約6%減りました。再エネで予定通りの発電ができなくなると化石燃料の争奪戦に発展しかねないでしょう。
再エネを増やしながらどうエネルギー危機を回避できるかがこれからの大きな課題になります。日本で考えられる対策としてはLNGなど化石燃料の調達力を強化して輸入量を増やす、国内の燃料備蓄を増やす、電気をためておく蓄電池を増やす、送電網を増強して地域をまたいで電力を融通できる体制を整えるなどが考えられますが、いずれも道半ばな状態です。