電気自動車(EV)など次世代車シフトの「芽」が地方で育ち始めた。人口当たりの普及台数で35府県が東京都を上回りました。
ガソリンスタンドの相次ぐ廃業を受け「給油所過疎地」が深刻な問題となる中、各家庭で充電・走行が可能となるEVやプラグインハイブリッド車(PHV)は、光明となる可能性を秘めます。環境意識の高まりも踏まえ、各自治体はハード、ソフト両面で普及を促します。

2009~19年度の都道府県別の普及状況(補助金交付台数、次世代自動車振興センター調べ)を人口1万人あたりで算出しました。
首位は34.8台の岐阜県。以下、愛知県(31.3台)、福島県(30.7台)、佐賀県(28.2台)が続いた。東京都は15.4台だった。
岐阜県は環境への取り組み強化に加え、中山間地を中心とする給油所過疎地の課題解決につなげようと普及を推進しています。航続距離への不安を解消しようと、県内56カ所ある「道の駅」の7割以上に急速充電器の設置を進め、全域をほぼカバーしました。

域内自治体も連携して取り組みを進め、高山市では環境保護の観点からマイカー規制中の乗鞍スカイラインでEVレンタカーによる乗り入れを試行。多治見市では地元の電力小売会社、エネファントが11日から小型EVレンタカーを開始しました。道路の起伏や気候の状況、利用者ニーズなどの情報を市と共有し、普及への課題を洗い出します。
愛知県は21年に「あいち自動車ゼロエミッション化加速プラン」を策定。EV、PHV、燃料電池車の新車販売割合を30年度に30%まで引き上げる目標を掲げ、普及に取り組んでいます。事業者に対しては、上限40万円とした補助制度を創設。走行距離の多い事業者に手厚く配分しました。個人向けには、12年から自動車税の課税免除制度を導入し、新車新規登録を受けた年度の月割り分および翌年度から5年度分の全額が免除されます。

地域の足として欠かせない存在のガソリン・ディーゼルエンジン車は、給油網の維持自体が課題となっています。
少子高齢化を背景とした後継者難に加え、人口減による需要減で採算性が悪化し、全国の給油所数はピークに比べ半減しました。
20年度末時点でスタンドが3カ所以下の給油所過疎地は全国の2割を占める343市町村。スタンドがない町村も10を数えます。維持コストの上昇に耐えきれず安定供給に支障をきたせば、地域は衰退の危機に直面します。
一方、EVやPHVは設備さえ整えれば自宅でも充電が可能となります。それだけに熱視線を注ぐ地域も多いです。福島県三島町では唯一のスタンドが20年5月に閉店。12月に公設民営として再開にこぎ着けたものの不安は尽きません。EVシフトを見据えた対応も検討する。鹿児島県薩摩川内市の甑島では、実証実験として17年度に島内に40台のEVが導入されました。終了後、「給油レス」など利便性の高さを認識した宿泊施設などが計7台を買い上げ、現在も利用を続けます。
公共交通機関もシフトを進めています。甲府市がEVバスを導入したほか、那覇市などでも導入予定しており、北九州市を拠点とする第一交通産業は23年3月までにバスやタクシー115台を導入する予定です。
さらに災害時の「非常電源」としての期待も高まっています。一般的な国産EVは電気を外部に供給できる機能があり、台風や地震などによって大規模停電が発生した際に、電力源として活用できます。
現在、多くの自治体がトヨタ自動車、日産自動車などとEV派遣協定締結を進め、21年7月末時点で国内自動車メーカーと自治体が結んだ協定は少なくとも420件。2年で10倍に拡大しました。
