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  • 電力「保障」駆け込み1.3万件 料金設定ルール是正へ 自由化制度、資源高に対応

    経済産業省は31日、電力小売りとの契約がない法人に必ず電気を届ける「最終保障供給」の利用が5月20日時点で1万3045件に上ると発表しました。

    4月末から2.5倍に急増です。資源高で発電コストが上がり、新規契約よりも最終保障が割安になっているのが主因。経産省は料金の是正を決めました。電力自由化の制度の一部を再設計し、資源高でも企業や消費者が多様なプランを選びやすい環境を整えます。

    最終保障供給はどの電力小売りとも契約がない「電力難民」の法人にも必ず電気を供給するセーフティーネットを指します。送配電会社に供給義務を課していまする。利用が急増した引き金は資源高。ロシアによるウクライナ侵攻で石炭や天然ガスの価格が高騰し、発電コストが上がったのです。

    経産省の電力・ガス取引監視等委員会によると、自由化後に電力小売りに参入した新電力などが電気を調達する日本卸電力取引所(JEPX)のスポット(随時契約)価格は5月1日から20日の平均で1キロワット時あたり17.1円。前年同月より2倍以上高いです。

    仕入れ値が上がっているため電気を販売すると損失が出てしまいます。一部の新電力は撤退しました。大手電力も高値で販売せざるを得ず、事実上、新規契約を断っています。行き場を無くした法人が最終保障に流れ込んでいます。

    監視委によると、2月までは数百件の規模で推移していました。3月末に5477件、4月末に5133件となり、5月は一段と急増しました。前年同月からは28倍増。エリア別にみると東京が最も多く4469件、次いで中部が2178件、東北が2014件、中国が1598件、九州が1419件などとなった。

    こうした状況を受けて監視委は31日、有識者による検討会を開き、最終保障の料金の設定方法を見直すことを決めました。

    最終保障の料金は現在、大手電力の小売りがそれぞれ定めている標準料金の1.2倍としている。一時的な利用にとどめるため、最終保障の方が割高になるようにしてきました。

    ところが大手電力は現下の資源高の影響で、新規の法人には最終保障より料金が高いプランを提案せざるを得ない。企業にとって最終保障を選ぶ方が割安で合理的になる。本来は割高なはずのセーフティーネットが価格破壊を引き起こし、競争を阻害するモラルハザードが起きているのです。

    新たな最終保障の料金は電気の卸売価格を適宜反映させ、常に割高になるよう改めます。最終保障料金は大手電力の送配電会社がそれぞれ約款で定めています。今回示した監視委の対策をもとに各社は今後、約款を修正する見通し。

    経産省は大手電力に対して必要に応じて新たな料金プランの開発や標準料金の値上げを促し、法人向けの新規契約の受け付けを再開するよう働きかけました。各社の対応が焦点になります。

    中部電力の小売事業を担う中部電力ミライズはすでに受け付けを再開。卸電力市場の取引価格に応じて料金が増減する「市場連動型プラン」を法人契約で導入しました。こうした料金プランでなければ電力会社は収益を得にくいとみられるが、資源高の局面では電気を使う企業の負担額が重くなる可能性もあります。

    資源高は2016年に完全自由化された電力市場に大きな影響を与えています。帝国データバンクによると新電力約700社のうち3月までの1年間で31社が撤退。新電力は発電所を持たないことが多く、市場で電力を調達するが、高騰した価格を転嫁できずに売るほど赤字になるためです。

    自由化はそれまで販売を地域ごとにわけていた電力小売り間の壁をなくすことで、各社が魅力的な料金プランを競い、企業や消費者が自分にあったプランを選べるようにする狙いがありました。資源高をどのように料金に転嫁し、電力会社と消費者で負担するかは手探りの状態が続きます。