4月から新たな売電制度である「FIP」が始まりました。
売電価格が市場価格に連動するようになり、再生可能エネルギーの発電業者などが高い収益を実現するためには、より正確な発電量を予測する必要があります。各社は人工知能(AI)などを駆使して、自然現象に左右される発電量を正確に予測しようとしています。

「予測のもとになるデータ量は世界一だと自負しています」。ウェザーニューズ、環境気象事業部の武田恭明グループリーダーは独自開発した発電量の予測システムに自信をみせました。
システムは国内1万3000カ所に設置された観測装置から気象データを集め、世界中の協力者からの気象状況の報告などと合わせて日照量を推定します。こうしたデータをもとにAIがその地区の太陽光発電施設の発電量を予測する。
2021年5月にはデータの範囲を数キロメートル四方から1キロメートル四方にきめ細かくしました。従来に比べて日射量の予測精度が8.5%高まったといいます。武田グループリーダーは「さらに観測装置の数を増やして精度を高めたい」と意欲を見せました。
FIPは「フィード・イン・プレミアム」の頭文字をとったものです。
再生エネの発電業者は電力卸売市場などで売電したとき、その収入に加えて補助額(プレミアム)を受け取り、従来制度は固定価格でしたが、売電する時間帯によって価格が変わります。電力需給をつぶさにみて売り時を探れば、より多くの収入を見込めることになります。
発電事業者にとっての課題は発電量の正確な予測。FIPでは発電量の計画値を申告する必要があります。実際の発電量にずれが生じた場合、その調整にかかる費用をペナルティーとして支払わなければならないのです。収益に直結するため、精緻な予測が重要になる。
太陽光や風力など再生エネの発電量を予測することは難しいです。AIに精通した大学や企業などと予測システムを開発する取り組みが増えています。
新電力のUPDATER(東京・世田谷)は東京大学と共同で、風力や太陽光による発電量を予測するAIを開発しました。季節による日の高さを考慮したり、発電所の近隣地区のデータも利用したりして計算モデルを改善。既存の一般的な予測法と比べて、精度が15%向上したといいます。
東芝は「アグリゲーター」と呼ばれる電力の仲買業者向けに、発電量だけでなく市場取引の戦略までも最適化するAIを開発しました。仕入れ先の発電所の発電量と電力の市場価格をそれぞれ予測し、将来の市場動向などを想定、収益を最大化する入札量を示します。
従来制度は発電事業者の増加により、日中などに電力が余る弊害などが起きました。政府はFIPで需要に適した電源を確保する狙いです。AIなどの予測技術が最適解を探るには欠かせなくなりそうですね。
日本経済新聞(5/13)